2011-01-07

漢文法基礎

漢文法基礎
本当にわかる漢文入門
加地伸行
2010/10/12 講談社
原著は1984年 増進会出版社より刊行

 英語の達人になると、英語を英語で理解するらしい。私のように英語の不得手な者にとってみると、奇奇怪怪な頭の構造である。英語を英語で理解する--それは、理想であろう。しかし、そういう芸当のできる人は数少ないのであって、英語で苦労している大半の人は、英語を日本語で理解するわけである。その際、どういうことが行われているかというと、中学校一年生用の学習参考書、早く言えば「虎の巻」を見てみると面白い。訳す順番に番号をふっている。"I am a boy." の下段に、Iに①、aに②、boyに③、am に④と書いてある。この順番に訳すと、「私ハ一人ノ少年デス」となるというわけである。高校生だって同じことである。「・・・・スルトコロノ、これはどこにかかるんや、え?ああここか、ほんなら、・・・・スルトコロノナンジノ--」とやっている。つまり返り点を打って訳しているわけである。英文解釈の大半は、こういう作業に終始している。ペラペラと英語で読んで、フッフーンペラペラと英語でわかるわけにはいかない。英語をドタドタと読んで、ヨッコラショドッコイショと番号を打ち打ち日本語に訳すわけである。と言うことは、漢文法流に言えば、「訓読」しているわけである。これが、日本人の外国語理解の正統的方法である。だれがなんと言おうと。
 私は、日本人が西洋語を学ぶ際、話すことよりも読むことに長じてゆく一つの理由は、この「訓読」の伝統があるからであろうと思う。奈良朝以来、鍛えに鍛えて練り上げられた訓読の技術が、しらずしらずのうちに伝承されているわけである。英文法の骨格で漢文を読む、という人が、いざとなると、訓読の要領で英文を読む、というわけである。漢文のできる人は、おそらく英文解釈に、漢文訓読の要領を適用しているに違いない。漢文の学習は、その広がりとして、外国語の学習に及んでゆく。日本人流の外国語学習法の一端がうかがわれると言えよう。(40ページ)

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