2012-02-11

翻訳によって近代の言語はできた

ルターが『聖書』をドイツの俗語で翻訳したこと、そして、それが標準的なドイツ語になったことはよく知られている。フィヒテは、ドイツ語はギリシャ語のみが比肩しうる唯一の原言語であると述べたが、そのとき彼はドイツ語が翻訳によって形成されてきたことを忘れているのだ。ドイツ語だけではない。近代のナショナルな言語はすべて翻訳を通して形成されているのである。しかし、大切なのは、なぜルターの翻訳がドイツ語を形成してしまうほどの強い影響力をもったのかということである。ベンヤミンは、ルターの『聖書』がもった影響力を、やはり、それが逐次的な翻訳であったことに見出している。そして、ルターに逐次的な faithful な翻訳を強いたのは、『聖書』という神聖なるテクストへの彼の信仰 faith である。(「日本近代文学の起源」、柄谷行人、岩波現代文庫 97ページ)

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