2011-01-15

知的余生の方法、読了

長くなりますが、英語に関する箇所を紹介します。

英語ができない訳

ところで、英語についても専門の立場から述べておきたい。
(中略)
何年英語をやっても、初歩の会話もできないのは英語教育が悪いためだ、と戦後ずっと言われ続けてきた。言っている人たちは実業家だったり、高級官僚だったりして、学校秀才だった人たちなので発言に力があった。そして「日本人が英語が下手なのは文法を教えるからだ」ということになって、今の英語教科書からは英文法が追放されてしまったのである。
その結果、簡単な買い物ぐらいはできるが、まともな本も読めず、ちゃんと手紙を書くこともできない若者たちを大量に送り出すことになった。つまり英語国の人からみると、今の日本の若者たちの多くは、自国における文盲の人みたいなものなのである。それはそうだろう。ちょっとした単純なことは言えるが、英語で新聞も本も読めず、手紙も書けないのだから。

読む能力と書く能力
「英語は二つの顔を持っている」ということが英語教育を難しくしていると思う。二つの顔とは、「漢文のような顔」と「韓国語のような顔」である。例えば漢文と言われるものは、普通の中国人には読めないから、漢文を学ぶなら、日本人の漢学者に習うのが、最も正確で緻密な実力がつく。しかし韓国語を習うなら教養のある韓国人から習うのが良い。ハングルを覚えて発音を正しくしてもらうのだ。ハングルで書かれた古典はないから、読むための特別の訓練、書くための特別の訓練はしなくてもよい。
ところが、英語は国際語であるから会話能力も大切だが、その一方、古典的な著作の多い言語なので、それを読む能力と文法的にも正しく書く能力が必要とされるのである。そして英米の社会のメイン・ストリームに受け入れられるためには(英米の大学で修士号を取るには)由緒ある英語が読めて、文法的に正しい英語が書けなければならない。これを以前の日本の良い学校ではかなりよくやっていた。だから留学して一年ぐらいは会話で苦労しても、そのあとはきちんとやれたのである。会話は生物的な条件反射の面が大きいから、その言語が話される環境にいるのが一番効率的だ。
ところが日本にいる時にちゃんとした英語の本も読めず、文法的に正しい英語を書けない人が留学しても、だいたい英米人から見た文盲の人のまま帰国することになる。
漢文や英語(ドイツ語でもラテン語でも何でもよいが)をきちんとやれるということは、知力の開発になると同時に、日本語も正しく書けることに繋がるのである。文法抜きで英語を教えると、少し長い文章や、複雑な文章は絶対に読めるようにはならない(アメリカ人にだって独立宣言文やワシントンの演説を正しく読めない人が沢山いる)。やさしい内容でもきちんとした英語の文章にすることができない。こんな英語教育をすることを今の高校や中学の英語の先生は強要されているのである。危機感を抱いたり、無力感を抱いたり、「こんなことで将来の日本人は大丈夫なのかな」という憂いを抱いたりする英語の先生たちがいるのは当然なのである。少なからざる高校の先生は「まともな英語は教えようがない」と嘆いているのだ。
その欠陥を少し補っているのが予備校なのであるが、予備校でも、学力は確実に低下の一途だという。英語に関しては、昔の私立の二流校に入る力があれば、今なら東大でも大丈夫だという人さえいる。ちゃんとした英書を正しく読め、手紙やレポートも書けるような英語をEnglish と私は呼ぶ。札びらを切って買い物ができるぐらいの英語は、「円」という通貨の力を借りているのだからそれはYenglsh である。今の学校の教室ではEnglish ではなくYenglish を教えようとしているのである。
ここで中谷巌氏(多磨大学学長)から聞いた話を紹介しておきたい。今から二十年ほど前、同氏とヨーロッパでの講演旅行を一緒にしたことがあった。その時、中谷氏が私にこう言ったのである。
「日本の受験参考書はいいですね。アメリカの大学で博士論文を書いていた頃、同じ教授についていたアメリカ人の学生に論文の下書きを直してもらった。ところが、教授が直して返してくれた英語は、自分が最初に書いた英語にもどっていた」
つまり博士論文を書いているようなアメリカ人の学生の英語よりも中谷氏の英語がー受験参考書で学んだ英語の方がー、文法的に正しかったという話なのである。私も体験上まったく同感した。(知的余生の方法(渡部)156ページ)



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

ネットなどの発達しておらず、留学生の数が少なければ、偉い先生が言っているのだから本当だろうなあと納得するような言説だという印象。

日本人の書いた英語が文法的にアメリカの大学院生よりもすぐれているというのは不可能。文章UP希望。

うえかわ

三羽四郎二郎 さんのコメント...

具体的な英文は載っていませんでした。他の本でも同じことが書いてあったのでそんな事もあったのだろうと思いました。