2012-05-28

外国語教育に関わる人が言語学や心理学で得られた知見に関心を持つこと

大津研ブログより

http://oyukio.blogspot.jp/2012/05/blog-post_27.html

1 チョムスキーは、外国語教育に関わる人が言語学や心理学で得られた知見に関心を持つことはよいことだが、外国語教育のような実践的行為に対し、言語学や心理学が直接貢献できる部分は少ないと思うという趣旨のことを以前から繰り返しています。わたくしもこの考えに賛成です。


2 言語学や心理学に代表される認知科学は理論構築、および、事実と論理による検証を繰り返しながら発展していくものですが、そのもとにあるのは、その行為によって、少しでも真実に近づいていきたいと願う夢です。夢は夢ですので、きょうの夢とあすの夢は違うかもしれません。そこで語られていることをそのまま英語教育の実践に役立てようというのは危険です。


3 科学には理想化がつきものです。しかし、教育実践においては、情報処理要因、個人差を含む教師要因と生徒要因、教室などの外的要因など、多くの場合、科学で捨象される要因こそが重要な意味を持ってきます。


4 したがって、認知科学としての第二言語獲得研究で得られた知見を直接、英語教育に活かそうとするのは危険であるという認識が実践者の側に求められます。


5 とはいえ、もうひとつ大切なのは、「外国語教育に関わる人が言語学や心理学で得られた知見に関心を持つこと」自体は重要なことで、問題はそうした知見に縛られ過ぎてはいけないということです。たとえば、英語教育を実践する先生がたには、文は単に単語が一列に連結された列車のようなものではなく、その背後に、単語のまとまりとその重なりという見えない世界が広がっているとか、言語理解の過程では言語知識だけでなく、ありとあらゆる情報を駆使した処理が脳の中で行われている(たとえば、「時計をお持ちですか」という発話も、道で声をかけられたときに発せられた場合と運動会の借り物競争の選手から発せられた場合とでは意味がまったく違う)とか、というようなことはぜひ心得ておいてほしいと思います。


6 5を実現させるためには、教育の実践に携わる方々に、科学研究の成果をわかりやすく解説する仕事が重要な意味を持ってきます。近年、そういう趣旨のワークショップや書物が少しずつ目につくようになってきましたが、教育実践者にとってはまだまだ敷居が高い。この状況を打破するためには、研究者のためのワークショップも必要だと考えています。


5と6についてシンポジウムでは意を尽くせなかったので、ここで補足した次第です。

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